「本当はやりたいんでしょ」っていうメッセージを仲介したい 〜スーパーイノベーター 沼田尚志さん〜

2020年6月10日

(前回からの続き)

障害があってもネガティブになる必要はない。重要なのは、希望があるかどうか

ーーーマイノリティであることで自信をなくしている子どもや、その親に対してアドバイスをお願いします。

以前、小児科に入院している障害のあるお子さんの親御さんたちに向けて講演したことがあるんですが、悲壮感が漂ってるんです。「なんでうちの子だけが」みたいな雰囲気で。確かに、自分の子どもが健やかではない状態だったらそんなにハッピーな未来は描きにくいですよね。でも、いま私がこんなふうになってるから言えることですけど、ネガティブなカードはできるだけあった方がいいと思ってます。

ーーーというと?

ヒーローやスターになりやすいからです。障害があるというだけで、異質な存在でいられる。努力しても手に入らないレアカードです。

例えば、いま困難があったとしても、その困難をブログにすれば、そこらへんのブログよりもかなり注目されるかもしれない。いましいたげられていたり、何かがうまくいってないなら、一般社会とのギャップを認識して、その上でレアな頑張りをする。そしたら周りがちゃんと評価してくれるんです。

病気だろうが、事故だろうが、いじめだろうが、いまこの瞬間だけの話だから、そこだけを切り取って自分がどう思うかは気にしないでいいんです。いまこの瞬間だけを考えちゃうと、いくらでもネガティブになれるし、何もやる気が起きないけど、重要なのはそこに希望があるかどうかですよ。例えば、「いじめられた×七大陸最高峰を登る」とか「病気をした×数学オリンピックに出る」とか、そういうふうに掛け算で組み合わせていくとレアになれるから、希望が持てますよね。なので、カードをいっぱい増やして、そのカードを組み合わせて、どうやったらレアになれるかを考えた方が建設的だと思います。いまネガティブなのはラッキーでしかないんだから、そんなに悲壮感たっぷりに見つめなくてもいい。

私、逃げ道を用意しとくのがすごく好きなんですよね。それしかないっていう状況は好きじゃない。仮に、そこで負けてもその子の人生は続くんだから、 そこで負けたことがその子にとってプラスになるようなことを考えてあげればいいんじゃないですかね。

「本当はやりたいんでしょ」っていうメッセージを仲介したい

ーーー最後に、沼田さんが今後やっていきたいことを教えてください。

皆に「もしかして、いけるんじゃないかな」って思ってもらうことですね。

私、好きになる映画のストーリーって決まってるんですよ。『アイアン・ジャイアント』っていう映画、知ってます? 日本の『鉄人28号』へのオマージュで作られたアニメーション映画です。最初に主人公の少年がアイアン・ジャイアントという巨大ロボを発見するんですね。アイアン・ジャイアントは全然悪いやつじゃないし、少年とも仲がいいんだけど、フォルムがすごくいかついから、「出てけ!」って街の人にすごくいじめられるわけです。

あるとき、山火事をアイアン・ジャイアントが鎮火して、街のヒーローになります。それからちょっと戦争っぽくなってミサイルが飛んでくるんだけど、それを食い止めるためにアイアン・ジャイアントが「なりたい自分になるんだ」って宇宙に飛び出して、ミサイルと一緒に爆発して……みたいなストーリーです。最後のセリフは、最初の方で少年とアイアン・ジャイアントが見てた、テレビのアニメーションのセリフなんですけど。

つまり、弱い立場の人間が、能力ではなく周りの支えによって頑張れるようになって、最後にはスーパーパワーを使って巨大な敵を倒す、そういう話が好きなんですよね。

何が言いたいかというと、私は勝手に「どんな人も皆ヒーローになりたいんじゃないの」って思ってるんです。表に出さないだけで、「いまのままでいいって100%は思ってないんじゃないの」って。

ーーーどういうことですか?

私は、特に成功してないんです。少なくとも、自分でこれをやったっていう明確な金字塔はない。私はきっかけになっただけ。何かをやったのは、その人同士ですよ。なので、私は皆に対して「なりたい自分になろうよ」って嫌味なく言える。私がまだなってないからです。

だけど、だいたいそういうメッセージを発する人は成功した人なんですよね。会社の社長とかスポーツの代表選手とか、すごい実績のある人がそういうことを言っても、周りは「そうは言っても、才能じゃん」ってなる。

よく大上段にかまえて「一歩踏み出す勇気が必要です」みたいなことを言ってるインタビューがあるじゃないですか。あれ、けっこう茶番だなと思ってます。それは皆そう思ってるよって。私も分かってるし、皆も分かってる。実際は、どっちに向けて踏み出してどうやって足を動かすかを、寄り添って一緒にやらないと踏み出せないじゃないですか。

だから、「私はこれを成し遂げた」って言った瞬間に皆と距離ができる気がしています。「沼田さんの才能だったんだ、やっぱできる人だったんだ」と言われてしまう。それで、成功した人たち人とお話しして、成功した人たちビジネスしてというのに、私はあんまり魅力を感じないんです。

何が言いたいかと言うと、成功した人は特別な人じゃないし、あなたたちも条件はまったく同じ。だけど、成功した側に行っちゃうと途端にメッセージが届かなくなるから、私が仲介しましょうということです。何を仲介するかっていうと、「本当はやりたいんでしょ」っていうメッセージ。皆やりたいに決まってる。なりたい自分になりたいに決まってる。だって生きているから。

いまはコロナウイルスで「三密」ができないから、仲介もやりづらいんですけど。早く寄り添って百密くらいしたいですね。

取材・文/下田 和

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