勘違いし続ける人生で見つけた、「スーパーイノベーター」の価値 〜スーパーイノベーター 沼田尚志さん〜

2020年6月2日

15歳のときに患った脳梗塞で半身不随になり、大人になったいまではその障害を武器に変え、ビジネスの最前線で活躍している人がいます。
スーパーイノベーターである沼田尚志さんは、現在NTTドコモに勤務するかたわら、CIO(最高革新責任者)として約10社の企業の顧問を務めています。彼が起こすイノベーションとは、「人と人、人と会社をつなげて新しいものを生むこと」。年間300回を超える「飲み会」を通じて日本一のネットワークを築き、これまでに数え切れないほどのイノベーションを生み出してきました。その裏にある哲学は、これからの未来で子どもたちが自分のモノサシを持って生きるためのヒントに溢れています。

本インタビューでは、沼田さんが病気をきっかけに自身の価値や強みをどう掘り起こしてきたのかを伺います。

沼田 尚志(ぬまた ひさし)/スーパーイノベーター、NTTドコモ イノベーション統括部

1981年東京都生まれ。1996年、脳梗塞で半身不随となる。
3年間の空白期間後、通信制高校、大学を経てNTT東日本でファーストキャリアを積み、2017年ヤフーへ転職。
2019年11月より現職。副業で10社のCIO(最高革新責任者:Chief Innovation Officer)を務める。
本業のかたわら新ビジネスに関わるイノベーターの祭典「しんびじ」を主催。現在では、オンライン番組「しんびじオンライン」を配信している。

ーーーいま現在は、どういったお仕事をされているのでしょうか?

NTTドコモのイノベーション統括部という組織で働いています。去年の11月からそこに所属しているんですけど、あがってきた新規事業のアイデアをブラッシュアップしたりサポートしたりするチームです。

11人のチームなんですけど、その中でも“社員のインナーモチベーション向上”が私のメインミッションで、そのためのイベントを企画してます。いままでは社内の人を集めてオフラインでイベントをやっていたんですけど、いまはコロナウイルスの影響で完全オンラインにしたので、それこそいま私がやっている「しんびじオンライン」と変わらないことを、NTTドコモの中でやっています。

ーーーどのような経緯で「しんびじオンライン」を始めたんですか?

私、30歳くらいからオフラインの飲み会を年間300回やってきてるんですね。ずっと毎日パーティみたいな。完全にパリピです。それが、完全オンラインになると、皆のことよく分かんないし情報量も少ないから、すごく違和感を覚えてあまり好きじゃなかった。だけど、コロナウイルスが収束しそうにないから、まずはできることをやろうと思ったんです。最初はドコモの中でオンラインのイベントをやってたんですけど、大きな会社だから規制も多い。例えば、社内で何月何日にこういうイベントやりますよって全社員に届けるのも時間がかかるんです。だから全部自分の意志で自由にやるために、しんびじオンラインをはじめました。

入院中も「スーパーヒーロー」になれると思い続けた

ーーー現在スーバーイノベーターとしてご活躍されていますが、そもそもなぜスーパーイノベーターを名乗り始めたのでしょうか。

1つのファクト(事実)を切り取ってスーパーイノベーターと名乗りだしたわけではないんですね。つまり、意外と文脈があるんです。

もともと、15歳のときに原因不明の脳梗塞を患って、それが私にとって最初の絶望でした。3年は寝たきりでしたね。それこそ、私のいた中学校では死んだと思われてますよ。一切思い出もないし、写真もない。もう生きててもしょうがないなと本当に思って、中学で逃げるように一度人生を終わらせました。退院してからも3年くらいは引きこもってましたね。

それまで、私は小さいときから人の輪の中心にいたんですね。いわゆる人気者みたい感じで、誰かが周りにいることが当然でした。

いつも私が考案したゲームを皆でやったり、小学校低学年のときに自分の野球チームを持って、皆をランニングさせたりしてました。「俺がピッチャーで4番でエースでキャプテン。君はセカンドね」みたいな。

ーーーチームメイトの反応はどうだったんですか?

周りは嫌だったんじゃないですかね。なんでこいつは自信満々に指図するんだと。

入院してたときも、本気を出してないだけで、「いつか爆発するでしょ」みたいに思ってましたし、誤解を恐れずに言うと、「ヒーローになれる」ってずっと考えてました。たぶん、これは生まれたときからです。

私、小さいころは消防士になりたかったんです。理由は、皆が泣いてるときに活躍するから。マイケル・ジョーダンとかイチローみたいな、いわゆるスターには憧れを抱かなくて。スターって自分自身で輝く人ですよね。ヒーローは人を助けたりピンチのときにすごく頼れるからヒーローなんですけど、そういうものに憧れがありました。

たぶん、小さいころから勘違いしやすかったんですよね。誰と会っても「あの子、俺のこと好きでしょ」みたいなことをいつも思ってました。わたしもみんなのことが大好きで、いろんな人を深く知って、その人に合いそうなポジションとかフルパワーで能力を発揮できそうなところにハメるのが超気持ち良かったんです。今思うとチームビルディングですね。だから今もずっと思ってます。誰かのピンチも大きな社会問題も、全部「私がいるから大丈夫」って。

正解がわからないから、自分で作りにいった

ーーー自分への期待がものすごく高いのですね。ご両親は、沼田さんに対して「自信過剰だ」って注意しなかったんですか?

いや、言われましたよ。言われたけど、 しょうがねえなコイツと思ってたんじゃないですかね。

ただ、うちの両親が特徴的だなと思うのは、両親とも自分に親としてのロールモデルがないんです。父親の父親、私のおじいちゃんは小さいときからいないし、母親も、自分の母親、つまり私のおばあちゃんが小さいころからいない。

両親とも地方出身で、高校を卒業してすぐ東京に来てるから、頼れる人がいない状態で、暗中模索しながら私を育ててたんですね。その状況で、私が15歳で死にかける感じになったから、もうパニックですよ。私もそういう中で育って、道をはずれちゃったから正解がよく分からない。だから、自分で正解を作りにいこうとしたのかな。勘違いし続ける中で正解を作りにいった結果、スーパーイノベーターを名乗りだした感じですね。

皆が手を出さないことをやる理由

ーーースーパーイノベーターと名乗るまでに、恥ずかしさやためらいはなかったんですか?

最初は「スーパーイノベーターです」とか言うの、嫌でしたよ。いまでも嫌ですけど。でも、得るものが大きいんです。恥ずかしくて皆が手を出さないこととか、選ばないワイルドなことをやった方が、リターンが大きい。

前に少しやってたオンライン飲み会で、NTTの先輩と対談したことがありました。その人も転職を繰り返したりして、ワイルドなことをやってたんですね。それで、「ワイルドサイド(ワイルドなことをやる側)、どうですか?」って聞いたときに、「ボラティリティが大きいね」という話になったんですね。

ボラティリティって、株でいう上げ幅と下げ幅のこと。普通の生活のボラティリティがプラマイ5だとしたら、ワイルドサイドを歩くとプラマイ50くらいになる。だから、めちゃくちゃへこむこともあれば、楽しいことがあったときにはすっごく楽しい。それを一回知っちゃうと、もう元の生活には戻れないんですね。それがリターンが大きいっていう意味です。

「迷ったらワイルドな方」って、元ヤフー社長の宮坂さんも言ってましたけど、私もそう思います。ワイルドな方を選択しないと、得るものの大きさが分かんないと思うんですよね。なので、やらない理由がないわけです。やらないで普通の人生を送るんだったら、やってめちゃめちゃおもしろい人生を歩んだ方がいいなと思ってます。

ーーー沼田さんが得たリターンは何だったんですか?

まず、私と周りとの関係にだんだん変化が出てきましたね。皆、私に対してちょっと違う対応をし始めたわけです。私の性質はいままでと何も変わってない、私はただスーパーイノベーターだって言っただけなのに。

飲み会とか、私が主催するイベントにも来てくれるようになった。一番大きかったのは、先輩たちが私を紹介するときに「こいつスーパーイノベーターなんですよ」って言ってくれるようになったことですね。やっぱり分かりやすいのが良かったと思います。ちょっとバカっぽいですしね、「スーパーイノベーター」って。

そうすると、どんどん人が集まりやすくなるんですね。さっき言った野球のチームビルディングみたいに、いろんな能力や個性を持った人たちが集まるようになって、私を中心に多様な生態系ができていった。

私がよく言ってるのは友だちを増やそうということ。しかもその友だちは、いわゆる会社とか大学のつながりじゃなくて、何でつながってるかよく分からない、ゆるいネットワークなんですね。そのネットワークが私の価値で、すごく特徴的なこと。スーパーイノベーターと名乗りでたことよって生まれた変化が、私を成長させていきました。

いろんな人が集まりやすくなったので、30歳くらいから飲み会をいっぱいやり始めました。飲み会で、私のユニークな友だち同士がめっちゃ話が合って楽しそうにしてると、私もすごく楽しいんですね。それがビジネスに発展したりすると、もうこれ以上ないくらい楽しいです。

そういうのがあって、私の存在って社会的に大きいんだなと思ったんです。友だちが多いだけなのに。いろんな人が、課題とか悩みを「とりあえず沼田に話してみよう」みたいな。私は何もできないんだけど、たくさんの人を知ってるから、「その悩みだったらこの人に話してみましょう」ということがすぐできる。周りに多様な生態系ができて、その生態系同士をつなげることで、スーパーイノベーターの価値が増すんだってことが分かってきたわけです。

取材・文/下田 和

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