若新雄純と考えるゆるいエデュケーション第4回 vol.2 〜JK課と試行錯誤できる「ゆるさ」〜

2020年4月7日

(前回からの続き)

JKとまちづくりをしようと思ったきっかけ

鯖江市役所JK課プロジェクトは、その名のとおり、市役所に女子高生だけのチームをつくって、まちづくりを楽しもうというもの。提案のきっかけは、別に地元のまちをどうしようっていうのは特になく、地元に帰って仕事ができる機会をつくりたいと思って。世の中に対して働きかけるというか、かっこいい言い方をすると、まちづくりのあり方を問いかけるみたいなことをしたいなと思ったんですよね。

JK課の話はあるコンペのワークショップをしている中で出たんですけど、チームを組んだ市役所の人が挙げていたテーマが「市民参加」っていう、本当に地元の市民とか若者と公務員がコラボレーションできているんだろうかっていう、新しい公共のあり方を深堀りしたいみたいなテーマだったんですよね。

それまで鯖江もそういう文脈の取り組みはしていたんですけど、一部のプロっぽい人たちがいてまちづくりが独占されてたっていう印象で。僕からしたら、まちづくりに興味がない、ど素人こそが参加する仕掛けを作りたかったんですよね。

それで、最も普通の若い市民で、一番インパクトがあって、その存在について考えざるを得ない状態になるのは誰かなって。あ、女子高生だなって。多くの女子は高校卒業したら県外に出ちゃう。出生率も下がる。だから、優等生じゃないリアルなJKを中心にまちづくりチームを作ったら、試行錯誤せざるを得ないし、考えざるを得ないなって思って、一番最初の会議でそれを思いついたんですよ。

「まち」は保守的?

コンペを主催していた市民団体は、鯖江で活躍してる活動家の人と過去鯖江のワークショップに参加したことのある若い官僚たちがチームを組んでやってたんですよ。

コンペの説明会のときに言われたのが、「鯖江は政策コンテストもやってるし、いろんな提案が出ているから、かなり斬新な提案をしないと、鯖江の人は驚かない」「机上の空論じゃなくて、実践的なものをお願いします」と。じゃあ実践的で面白くて、本質をえぐり出すようなものがいいなと思って、「どうですかみなさん。アイデアは出そうですか」とか言ってる時にアイデア決まりましたーって。「市役所にJK課を作るというのを思いついたので、これをやろうと思います」って言ったら、進行してた官僚メンバーから「いや、もうちょっとじっくり考えてください」、「別に今日決めなくてもいいんで」「もうちょっとていねいにやったほうがいいですよ」って言われたんですよね。

それで、やっぱり、実際にまちに何かを提案するっていうのは、保守的になるんだなってことを感じ取って、鯖江のまちも新しいことをいろいろ始めてはいるけど、根底から若者が参加するっていうことがどういうことなのか、ということをとことんえぐる意味はあるな、と思ったんです。それで、コンペで発表する前に市に提案しちゃおうと思って。

なんでかっていうと、その空気感だと、みんなにはJK課の本質を伝わりきらないだろうし、コンペで発表しても賛否両論で参加者から票がたくさん入らず優勝できない可能性あるなと。コンペと言っても、市の事業を正式に採用するための場ではなくて、市に提案するかどうかは個人の自由だったので、コンペで票が入らなかったら進めづらくなるから、それとは別に市に提案して始めようと。

チームを組んだ職員さんに「これコンペで発表しても賛否両論になると思うので、すぐ市に提案したい」って打診したら、「この人を押さえてください」という役所内のキーパーソンを紹介してくれて。

ちなみに、コンペで優勝したのは、「子どもたちが商店街でビジネス体験をする」というアイディアでした。

僕たちは、そのコンペの発表会の前に市に提案して、議会に通してもらったっていう感じです。一緒に組んでくれた職員の人も頑張ってくれたし。”この人を押さえてください”っていうキーパーソンの方がすごく共感してくれて、これは面白いって言ってくれて。その人は本当に「市民参加」というテーマに取り組み続けてきた方ですごい切れ者だったので、一見ややこしく見えるJK課のコンセプトがちゃんと伝わったんですよ。「これは本質的だし、やるべきだね」って。それで、市長が英断して進めてくれました。

「大人が教える」という価値観を超えたい

企画が始まる前から、新聞とかですごく話題になって、議会や市民の間でも「JK課って大丈夫なのか」っていう話になりました。だから、一緒にチームを組んだ職員さんが市民向けの説明イベントやろうって。ホール貸し切って、100人近いお客さんとかメディアを呼んで。なんでJK課をやるのかっていう説明会的なシンポジウムを市長と一緒にやりました。

JK課の重要なテーマの一つが、試行錯誤して、変化の中から発見すること。だから、計画やゴールを設定しないというコンセプトを重視してるんですが、その狙いとかを説明しても、その段階では、なかなか伝わらなかった。何度繰り返しても、「何言ってんだろう」みたいな反応が多かったんですよね。

でも、計画やゴールを決めて、過去の成功体験があるプロっぽい大人を加えてしまうと、集まってきた高校生とかに「教える」ようになってしまう。鯖江に限らず、どのまちにもそういう人はがたくさんいると思います。

でも、プロに教わることが必ずしも通用しないのが現代社会のむずかしいところ。そして、まちづくりはゴールが明確じゃない。だからこそ「大人が教える」という価値観を超えたかった。「教育の限界をJK課で突破したい」って言ったことに、けっこう反感買ったみたいです。別に誰かを名指したわけじゃないけど、「教える」というやり方でやってきた人はいっぱいいたんじゃないですかね。でも、そこは妥協できない。僕の大事な仕事でした。

試行錯誤の価値

校則なんかちゃんと守ってない「そのへんのJKを集める」というのも大事だったんですが、JK課で一番大事かつ最もチャレンジングだったのが、前述の、計画やゴールがないっていうところなんですよ。

市の税金を使う事業で、計画やゴールがないのは、普通はあり得ないことみたいです。それを通すっていうのは、予算の大小にかかわらず大変で。でも、大人が期待したゴールのためにじゃなく「この試行錯誤の場を設けたことで、どんな新しい学びや変化を生むか」っていうことがテーマだったので、それを強く提案しましたね。

それが一番大事な僕の仕事でした。計画やゴールに縛られない代わりに、新しい発見がたくさん生まれる。ゴールよりも発見を重視するっていうのが僕のこだわりで、そのために、大人の思い通りにならない女子高生を入れて、試行錯誤せざるをえない状況にするっていうのがポイントですよね。

試行錯誤のための「ゆるさ」

答えを出すんじゃなくて、新しい発見のためにみんなで試行錯誤する。そのためには「ゆるさ」が大事だっていうのを、このころからよく言うようになったんですが、まだ分かってくれてる人は少ないかもしれません。でも、大学のボスの先生は応援してくれました。きっと、学問の本質的な価値に近いものがあったのだと思います。

もちろん、答えを教えてもらうことで育つものもあると思うんですけど、とにかく画一的に若者を大人の理想とする姿に育てようとすることは、見直すべき時代かと思います。「こういうものがあった方が便利だよね」とか「これがあると社会が良くなるよね」っていう明確に目指すべき価値観を設定するんじゃなくて、社会の環境が変わって、こうなるのが望ましいっていうのを見つけづらい社会の中で、どのようにして自分なりの納得や個別解を見出すか。試行錯誤から得られる「新しい発見」は、多くの大人にとっての今野理想ではないところにあるかもしれし、そもそも、なにが正しいのかどうかもまだ誰にも分からない。

だから、次の世代と探し続けるです。

つまりJK課がどうなったら成功とかじゃなくて、彼女たちと一緒に、みんなで探し続けていくことを大事にしているんです。だから計画もゴールもなくって、ゆるい。

でも、プロジェクトの運営者ってプレッシャーがあるし責任もあるじゃないですか。だからどうしても、「うまく」いくようにやっちゃう。探し続ける状態よりも、いい結果が出る状態、にしようとするんですよ。答えを出せないと失敗と思われちゃうから。

久しぶりに福井に帰って、「まち」にいる大人と関わってみたら、やぱりそういう考え方の人が多かったんですよね。「こうすべき」みたいな。若者向けのコンペとかワークショップでも、プレゼンの練習にすごい時間かけたりする。大人が期待する「こんなに人前で堂々と喋れるようになったのか」みたいな理想を押し付けがち。僕は、それが好きじゃなかったんですよね。

評価基準そのものを問う

どんな仕事でも活動でも、評価基準が明確だと、安心するじゃないですか。うまくいったかいかなかったっていうのは自分でも確認できるし、他者に説明するときもやりやすいと思うんですよ。こういう評価基準を設けていて、それを達成しました。どうですか? 素晴らしいでしょ、みたいな。だからJK課ではあえて評価基準を設定しないっていうことがすごい挑戦だったんですよ。あえて良い悪いの評価基準を設定しないんですよ。というか、評価の考え方そのものを問うっていうか。でも、評価が要らないっていう意味じゃないんですけどね。

でも、特に自治体とか学校組織って、そういうのは苦手じゃないですか。評価基準を明確にしたい。JK課ができた時に公立の学校の多くが反対したのも、評価基準や成果が分からないからだったと思うんです。これによって高校生がどうなるの?どう育つの? みたいな。それで、誤解されて、行き当たりばったりで計画性がない、話題性のためだけにやってるって批判が多かったんですよね。

それでも僕が自信を持ってやれたのは、大学のボスの先生から、評価基準を設けないところから新しい価値基準を探ろうとするのはすごい意義があるって言ってもらえて。こりゃ頑張るしかないなと。

若新 雄純(わかしん ゆうじゅん)

福井県若狭町生まれ。株式会社NEWYOUTH代表取締役、慶應義塾大学特任准教授などを務めるプロデューサー。
慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)。専門はコミュニケーション論。全国の企業・自治体・学校などと実験的な政策やプロジェクトを多数企画・実施中。

全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生がまちづくりを楽しむ「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円「ゆるい就職」、目的のいらない体験移住事業「ゆるい移住」などをプロデュース。著書に『創造的脱力』(光文社新書)がある。

http://wakashin.com/

上部へスクロール